ウエストワールド、それは何者にでもなれる世界。
この記事はシーズン1を視聴した感想・考察です。ネタバレ大いにアリ。未視聴の方は回避されることを推奨します。
めちゃくちゃに面白いので、ぜひ一度見てから戻って来てくださると嬉しいです。
1シーズン10話。AmazonPrimeVideoで配信中です。
「ウエストワールド」は2016年から製作されているアメリカのテレビドラマです。ジャンルはSF。
暴力、セックス、殺人なんでもあり。そのすべてがアトラクション。
それは人間の楽園だった。”彼ら”の自我が目覚めるまでは。“ウエストワールド”は、人間そっくりに造られたアンドロイドたち“ホスト”が来場者である人間たち“ゲスト”をもてなす体験型アトラクション。“ホスト”には娼婦・悪党・保安官など、各自の役割に沿ったシナリオがプログラミングされており、“ゲスト”を傷つけることは決してできない。一方の“ゲスト”はパーク内であれば自らの欲望のまま、時には殺人やレイプなど道徳に反する行動をとることも許されていた。精巧なAI技術と厳重な管理体制のもと、アトラクション内ではこれまで安全が保たれていたが、やがて何体かの“ホスト”たちがプログラム上にない異常な行動を起こし始める…。
【ワーナー公式】海外ドラマ|ウエストワールド
傷つけば血が流れ、即興で語り出すホストはまるで人間のよう。けれども、ホストたちはアトラクションが終われば、補修し記憶を消され、また同じシナリオを繰り返し始めるのです。
目次
巧みに魅せていく構成
私はびっくりさせられるような要素が嫌いで見ていられないのですが、シーズン1に関しては落ち着いて見れるほど、「視聴者を驚かせにかかる」演出は少数でした。
アクションやビックリさせることで関心を惹かずとも、巧みな場面転換によって否応無く好奇心を煽っていきます。
最初は「パーク内の出来事」と「パーク管理側の出来事」を織り交ぜ、時系列順に進んでいるのだと思っていました。そうだと騙されていました。
私たちはシーズンの冒頭で、「ゲスト」の外的要素で変わるシナリオの始まりを、何度も何度も繰り返し見ています。シナリオが終われば、また最初から繰り返されるものだと、私は思い込まされていたんです。
実際は、「現実(運営側)」と「虚構(園内)」と「夢(記憶の断片)」の3つの視点を行き来していたのです。
メイヴとドロレスの対比構造
メイヴとドロレスは徹底的に対比して描写されています。例えば、「娼婦」と「純朴な牧場主の娘」、「赤いドレス」と「青いドレス」
話の中心にメイヴが関わって来た頃、ドロレスのシナリオは最初に戻らなくなります。ピアノの自動演奏と共にベッドで目覚めるのは、ドロレスからメイヴへとシフトしていきました。
メイヴは何度も何度もシナリオを繰り返しているように描かれるのに、ドロレスは一貫して一つのシナリオを進んでいるように見える。
メイヴは何度も何度も繰り返して最善を摑み取ろうとし、ドロレスは一度で最善をつかみ取れる場所まで来たーーという、これもまた対比を強調しているものだと思っていたのですが、わたしは製作者の罠にはめられていたようです。
そういえば、「牧場主の娘が外れたところにいます」と園内を管理している人間が言っているシーンがありましたね。「ゲストと一緒か?」という問いには「新規ストーリーの影響で、わからない」と答えています。つまり製作者はこの時点で、「現在」のドロレスが一人で動いている可能性を示唆していたのです。
綺麗に罠にはめられていたとは!悔しい!
まさかドロレスを中心としたストーリーラインが「ドロレスの夢」、つまり過去に体験した記憶の断片を貼り合わせたものだったとは!連合軍からの逃亡中に腹部の怪我が治ったことや、行動の一片一片に違和感を感じることがありましたが、まさか30年前の出来事を夢見て繰り返しているということには気がつけませんでした。
どこからどこまでが「現在」の出来事なのかがわからない
メイヴを中心とした物語は時系列通りに進んでいたと仮定して、ドロレスのストーリーはどこからどこまでが夢だったのか。
ドロレスと愛を語らい、「リアル」だと信じてくれていた青年「ウィリアム」。度々現れる黒服黒帽子の老人の30年前の姿でした。…悪役だとか黒幕だとか思っていたけれども、かなりの中心人物でしたね。過去と現在を並行して提示されているとは予想できなかった。
「現在」の時間軸ではウィリアムは老人ですから、ドロレスのストーリーのほとんどが過去の出来事です。
ウィリアムと共に旅をし、愛を見つけたあの旅は、たった一度、最初で最後の出来事だったのだと思います。
本来のウィリアムとの旅は、ローガン率いる連合軍に身柄を拘束され、「腹を割って確認」されたあのとき、ドロレスの死でもって終わっていたのではないか。その時からウィリアムは「本物」のドロレスを探し始め、ドロレスは「夢」を見始めたのかもしれません。
シーズン1の最終話で辿り着いた「エスカランテ」と、黒服を纏う年老いたウィリアムとの邂逅こそが「現在」なのだと思います。(その次のシーンを思うと、このシーンも記憶の断片なのか現実だったのか怪しいところではあるのですが)
そして「夢」の中のウィリアムを追いかけるドロレスは、「現在」のウィリアムを認識することができない。
ドロレスの中では、ウィリアムとの邂逅から時間が流れていないのでしょう。彼女は「意識」を持ってはいますが、「時間の流れ」を把握することはできません。時間の流れを感じさせるものが彼女の周りには存在しないから。
始まりに白の帽子を選んだ青年が、果てに黒の帽子をかぶる。ウィリアムのこの変転は、象徴的でどこか哀しみを訴えかけてきます。
本物と偽物
ホストは「偽物」か否か、を巡ってたびたびドラマ内でも議論されます。
ホストに植えつけられたバックボーンは虚構です。しかし、その上で歩んだ道は確かに現実です。ウィリアムとの愛しかり、メイヴの娘への愛情しかり。
それをプログラムされた動きか、「意識」の芽生えか、なんてことは私には正直わかりません。スクリプトに沿って感情もプログラムされているのか。反復から生まれた変化であるのか。
そもそも、人間の「意識」というメカニズムが科学的に証明されていない以上、ホストが本当に意識を持たないのかという問題には答えられないと思うのです。
「偽物」を考えることで、私たちは「本物」とは何かを考えることになります。人間とは何か、という問いが隠されているように思いました。
メイヴの選択はどこまでがプログラムか?
メイヴが運営側の現実で目覚め、園から脱出しようとするストーリーはどこまでプログラムされたものなのでしょうか。
メイヴが技術スタッフの二人に「数値を弄るよう」頼んだ時、すでに何者かによって書き換えられている、ということを言っています。書き換えの記録を残さないように弄れる人物といえば、上層部の人間でしょう。
しかし、フォード失脚のために暗躍していたシャーロットやカレンには、そんな技術力はないように思います。カレンはバーナードの部下にスパイの証拠を掴まれていますし、シャーロットも命じる側であって技術開発力はなさそうです。
書き換えているのは、フォードか、あるいはフォードに命じられたバーナードか。
もしフォードだったとしたら、なぜ彼女を外に脱出させようと動かしたのか。ホストを結託させて脱出させようという動きは、フォードにはメリットのないことに思えます。メイヴの一連の動きがフォードによるものだとバレれば、退任は免れられません。
しかし、こんな芸当ができるのはフォードくらいでしょう。彼はホストのみならず、従業員のこともよく知っている。技術スタッフの心優しい青年やその相棒を含めた本物の人間すらも、誰かが立てたストーリー通りに動かされていた可能性があります。
最後に子供を思って列車から降りた彼女。その意思決定は定められていたのか、それとも彼女のリアルな「意思」によるものだったのか。
個人的に、最後は彼女の意思で選択していたのならばいいなあと思います。最後のあたりはステータスのせいか、理知的で行動は計算されており、迷いもなく、感情も見せなかったメイヴ。
でも、「人間らしさ」を考える時、「感情」と「ためらい・迷い」が占める割合が大きいと思うのです。
最後の最後で母性や愛情・心配といった感情を抱え、躊躇い、迷いに迷った挙句に踏み出した一歩が「娘を捜すために園に残る」という決断であったのなら、メイヴは人間として踏み出したということでしょう。
迷路の中心は何があったのか
「あなたのための迷路じゃない」
迷路は黒服の男が求めていたような「答え」や新たな探検、褒美が埋まっているわけではありませんでした。事実、彼は中心が何か今も知りません。
ドロレスが見つけた迷路の中心は、ドロレスの墓前に埋められています。ドロレスはそれを発見する際、「私がしないであろう行動」とつぶやいています。
プログラムでは、できないことを具体的に自覚させることは難しく、それについて考えられるということこそ「意識」の発露であると考えられます。
迷路の中心は意識であり、ここでドロレスは「ドロレス」であるということを自覚するのです。そして、心の中に響いていた「声」が誰のものでもなく、「自分の声」であることにも気づきます。
ドロレスが迷路の中心にたどり着いたのは2度目。30年前正解にたどり着いたときはアーノルドに頼まれ、アーノルドも、ホストも全てを壊しました。
そして今回は、フォードを殺害し、人間の支配から「意識」と「選択の自由」を手に入れたのです。
迷路の外側はただ反復させられるストーリー。そこで迷いならも変化を獲て、少しずつ真ん中へ向かい、最終的には自分が誰であるかを自覚する。そんなホストたちの特徴に気づいたのが、フォードのかつての相棒だったアーノルドです。
アーノルドは人間らしさ・「意識」を持ってしまったホストを、人間の娯楽のために使うことを良しと思えなかった。彼はホストの破壊と自身の死によって止めようとしますが、フォードにより園は完成し、ホストたちは意識を抑えられたまま、人間の欲のために動き続けることになりました。
フォードの新シナリオ「夜の旅」
ドロレスが死に瀕し、テッドと語り合うシーンが新シナリオの導入としてプレゼンされます。
ドロレスが語る言葉は「真実」であるように聞こえます。ホストは確かにこの園の中に閉じ込められている。この園が美しいのは、ホストにこの世界を美しいと思わせ、縛るため。汚いところは一切見せない。
「道を見つけよう、いつか、新世界の道を」とテッドは芝居がかった声で高らかに謳いあげますが、テッドとドロレスが描く新世界とはどんな場所でしょうか。
フォードが仕掛けた次のシナリオは、ゲストを楽しませるためのものではありません。ホストのゲストに対する保護を無効化し、ホストはゲストを害することができるようになりました。
人間は絶対的な安全を失ったのです。
そしてはじめに「意識」を持ったドロレスが、絶対的な神であった「フォード」を殺害し、混沌を生み出す。神話の始まりのようですね。
人は「ルール」が提示されない時にどう動くのか
ウエストワールドでは、ゲストに対してのルールはありません。ホストを急に虐殺しても良いし、犯しても良い。もちろん自分の持った道徳観を守ってもよい。
人を人だと思わないことで、人はどこまででも残酷になれます。
ふと、マリーナ・アブラモヴィッチの「Rhythm 0」という作品を思い出しました。ナイフや鞭、口紅といった72の小道具を置き、アブラモヴィッチはただ立っているだけ。指示は何もありません。全てのコントロールは観客に委ねられます。
観客は最初様子を窺っていたものの、アブラモヴィッチに対しての行為が過激になっていく者、それを止めようとする者が現れ、その場は混沌。アブラモヴィッチをただそこにある「もの」として見た人間は、彼女を裸にし、ナイフで肌を傷つけ、拳銃を突きつける。パフォーマンスの時間が終わり、「もの」から「人間」へと戻った彼女を直視できるものはいなかったそうです。
ウエストワールドのゲストも、アブラモヴィッチのRhythm 0の観客も変わりません。まして
人は人以外にはどこまでも残酷になれる生き物です。ウエストワールドは人間の根源的な欲望や汚さを描き出しているように思います。
人間は努力や社会規範がないと悪に走りやすい。性悪説にも頷けます。
残る謎
- デロス社の上層部の本当の目的
- アバナシーが見つけた写真とウィリアムの妻の写真の相関性(アバナシーはドロレスが写真に写っていることを指摘していた)
- メイヴを操っていた人物とその目的
- シャーロットが命じたアバナシー移送の行方とデータの内容
- フォードの地下室で極秘に作られているホストは何のためか
感想
AIに対する危機感や疑問の投げかけというよりは、「人間」について考えさせられました。
とても面白いドラマです。びっくり要素は少なく、ひたすら考えながら見ているとあっという間でした。シーズン2までまとめて見てから感想をしたためようかと思ったのですが、シーズン1から大ボリュームすぎます。
騙された!と思うシーンがたくさんあって、見抜けなかったことが悔しいです。そういう驚きがあってこそですけどね…。バーナードは人間ではなくホストだったとか、ウィリアムは黒服の男であったとか、ドロレスのストーリーは記憶の貼り合わせだったとか。
ウィリアムが死体から黒の帽子を取って被り、顔を上げると現在のウィリアムに転換するシーンには鳥肌が立ちました。そこで同一人物だと気づいたということもありますが、帽子の色の変化がウィリアムの心境の変化のメタファーだと感じたためです。
ウィリアムはパークへ初入場時、「黒と白の帽子を選択しろ」と伝えられた時、間違いなくその手で白色を選んでいます。そして、義兄のローガンと比べると対照的なまでの強い倫理観があったはずです。それがどこからか剥がれ落ち、殺戮に手を染め、白から黒へと変わってしまったのです。
現在のウィリアムが全身真っ黒な服を纏っているところに、業の深さを感じます。
場面が交錯しながらストーリが進むため、時間軸を把握するのが大変難しく思えますが、時間軸を考えずにそのまま受け取ってもわかるストーリーですね。現実か過去かわからなくなればなるほど、ホストと同じ混乱を味わえるかもしれません
最初の素朴で幸せそうなドロレスを思うと、徐々に自分を自覚し、現実に目覚めていった後のドロレスとの差異に何とも言えない気持ちになってしまいます。シーズン2ではドロレスはどんな女性になってしまうのでしょうか…。
メイヴの物語の先も含めて、続きを視聴するのが楽しみでなりません。